今更だが、「赤い文化住宅の初子」の感想を書く。


父は借金を残して蒸発、母は借金を返済しようと働き体を壊して死んでしまった。残された兄と二人暮らしをする中学3年生の初子。兄は少ない給料を使い込み、電気が止められたりする。そんな中、初子は同級生の三島君と一緒に東高に行くという約束を果たそうと勉強を続けるが…。

亡くなった母が大好きだった「赤毛のアン」。 初子はそんなアンはおかしいという。 みんなから愛され、夢も叶う。人生そんなうまくいくなんて絶対おかしいと。きっと、病魔に冒されたアンの妄想なのではないかと。そんな感じの女子中学生。初子。

自分の周辺だけの狭い世界でどうしていいか分からないから、周りの人間に生き方を大きく左右される。普通でない境遇であるからこそ、周りとの認識がズレてしまい、初子は周りから理解されていない。でも、それは仕方のないことだと思っている。家に電話が無いことを正直に言ったら、電話番号を教えたくないのだと勘違いされるシーンは切なかった。

彼らは初子に対して大きな関心もない。ただ、大多数の中の1人だ。それでも、そんな大人達に初子は振り回されてしまう。きっと、別れが怖いから恋愛をしないような感覚なのだろう。初子は、これ以上辛さを味わいたくないから、ただ淡々と日々を過ごしていくのだ。人並み以上に人に期待をしたいと思っている、だけど、それは無駄で結局裏切られるだけだと、自分の中でストッパーをかけている。だから、過度に感情移入しない。それが初子が生きていく術なのだ。他人が吐き出す言葉が、皮肉や嫌味に聞こえることもある。 感情を無にすることで、それをただ通過させる。

そんな初子が唯一安心できる存在が兄だ。兄は、妹を心配しているも日々の生活、現実を支えるのが精一杯で優しく振舞う余裕が無い。初子もそれはわかってるから、特別感情を荒げたりはしない。兄も初子に直接的な暴力を与えることはしない。2人切りで生きてきた信頼関係がある。そして、あやとりのシーンでグッとくる。

一方、三島君は、初子に唯一希望を与えてくれる存在であり、初子が唯一感情をぶつける存在である。「大人になったら結婚しよう」。2人は何度も口にする。初子だって、そんなに大きな期待はしていない。だけど、この言葉を思い出すことで、口に出すことで、日々を淡々と生きていく中での支えにしている。でも、三島君は家族じゃない。だから、三島君の一言で傷ついたりする。安心したいから、結婚したいと願う。言葉の不確か性を知っている。だから、何度も口にする。確かなものにしたいから。

好き同士だからとはいえ、その感覚や思いを共有することは出来ない。共有できる唯一のもの、それは絶対的な温度だけだ。

重い話を、脚色をつけて重く描いたり、大げさな希望を提示するのではなく、ただ淡々と過ごしていく日々を描いていくタナダユキ演出は変わらず。音も音楽も過度に使わず、ただ淡々と見せる。

切ない物語でもない。かといって、希望があるわけでもない。特別暖かくもない。ラストシーン、一応はハッピーエンドとも思える。しかし、僕にはそうは思えない。普段からしていた口約束。前からしていた何も変わらない口約束。結局、初子はまた日々を淡々と生きていくのだろう。その言葉を支えにして。この先のことなんて何も分からない。そして、初子は文化住宅を去ることで、一歩を踏み出すのだ。でも、それも「希望」ではなく「通過」でしかない。でも、その頃の初子には、三島君がいた。それだけは紛れもない事実。

東亜優ちゃんは良い女優さんです。今度は、幸せな女の子を演じて欲しい。